Fate/stay night 変わる運命 改
第一話
「問おう。汝が我を招きしマスターか」
「ああ、この俺が貴様のマスターだ。俺の名は春日大和だ。まずは貴様の真名を聞いておこう。まあ、触媒を使っているのだから予想通りの英雄が呼ばれているはずだが」
「わが名は征服王イスカンダル。此度の聖杯戦争ではライダーのサーヴァントを得て現界した。うむ、じゃあ契約は完了、と。――では坊主、早速書庫に案内してもらおうか」
「書庫ですか、良いですよ」
俺はライダーを普段使っている書庫に案内した。
魔道書や貴重な本は別の場所に保管してありますが、それが目的って事はないでしょう。
結局ライダーが欲したのは地図帳とホメロスの詩集らしい。
時代が時代だけにギリシャ神話はかなり好きでしょうし、征服王として世界の地図には興味があるんでしょう。
ライダーは感心しながら地図帳をみていた。
「ライダー地図に興味があるのか?今の聖杯戦争では必要ないものだと思うが」
「戦争は地図がなければ始まるまい。当然ではないか」
ライダーはそんなことを言っているが、実際のところライダーは地図帳の冒頭のグート図法による世界地図を見入っている。
「何でも世界はすでに地の果てまで暴かれていて、おまけに球の形に閉じてるそうだな……成る程。丸い大地を紙に写すと、こうなるわけか……」
俺の知る限りでは、サーヴァントとして聖杯に招かれた時点で、聖杯からその時代での活動に支障がない程度の知識が授けられるのだという。
つまりライダーでも、地球が丸いことを納得できるぐらいには弁えているのだろう。
でも真っ先に世界地図を欲するのか理解できない。
まさかとは思うが世界征服なんて事を目標にしてるんじゃないでしょうね。
天下統一って言う目標は理解できますし、共感もできるんですが、今の時代にそれは武力でやることではないでしょう。
「で、……おい坊主、マケドニアとペルシャはどこだ?」
マスターに対して少しは敬意を払ってほしいものですが、王として他人に阿る事はできないんでしょうね。
まあ、些細なことですし気にするほうが愚かでしょう。
とりあえず質問に答える意味で地図の一点を指した。
途端―――
「わっはっはっはっは!!」
ライダーはまるで弾けるような勢いで笑い出した。
「はははッ!小さい!あれだけ駆け回った大地がこの程度か!うむ、良し!
もはや未知の土地などない時代というから、いささか心配しておったが……これだけ広ければ文句はない!
良い良い!心高鳴る!……では坊主、今我々がいるのは、この地図のどこなのだ?」
ホントいやな予感が抜けないながらも、極東の日本を指差した。
するとライダーは大いに感心した風に唸って、
「ほほーぅ、丸い大地の反対側か……うむ。これまた痛快。これで指針も固まったな」
「指針って何だ」
「まずは世界を半周だ。西へ、ひたすら西へ。通りがかった国はすべて陥としていく。
そうやってマケドニアに凱旋し、故国の皆に余の復活を祝賀させる。
ふっふっふ。心躍るであろう?」
いやな予感は的中した。
こいつは聖杯で受肉した後に世界征服に乗り出す気だ。
時代錯誤も甚だしいと言いたい所だが、こいつは古代人だからな。
たぶん言ったところで聞きはしないだろうし、説得するにしても最後の最後にするとしよう。
「まずは聖杯だろう。聖杯を手にしなけりゃ何にもならないだろうが」
「そうだ聖杯といえば、まず最初に問うておくべきだった。坊主、貴様は聖杯をどう使う?」
「そんなことを聞く意味があるのか、どうでもいいことだと思うが」
「そりゃ確かめておかねばなるまいて。もし貴様も世界を獲る気なら、すなわち余の仇敵ではないか。覇王は二人と要らんからな」
「確かに覇王は二人と要らないでしょうね。安心してください、今の俺の目的は世界征服ではなく世界最強ですから」
「世界最強か。それも男子として抱く大望のひとつではあるな。うむ、良い。それでこそ余のマスターだ」
「今回の聖杯戦争の序盤では協力するマスターがいるから、そいつを紹介しておこう」
ライダーには隼人のやつのことも紹介しておかなくては、今回の聖杯戦争での優勝候補の一人、キャスターのマスターたる俺の兄のことを。
ということで隼人とライダーを会わせた。
キャスターもライダーも序盤では共闘するということで一致した。
納得しなければ令呪使ってでも納得させるだけだが。
俺と隼人の戦いはこの聖杯戦争の幕を下ろすのにふさわしい戦いになるのだから。